第11回 / 輸液ルートの選択

1 末梢静脈からの輸液

 

輸液は医療現場で日常的に行われており、医療の専門家にとっては初歩的なことのように我々素人には見えますが、輸液ルートの選択と確保は、医療事故の危険性が高い行為だそうです。
 特に、内頸動脈、鎖骨下静脈、大腿静脈のいずれかを輸液ルートに選択する「中心静脈法」は、医療事故の多い手技であると言われています(武井卓、参考文献@、55頁参照)。

 

経静脈の輸液には、大きく分けて、末梢静脈を輸液ルートに選択する方法と、中心静脈を選択する方法の2つがあります。

 

末梢静脈法は、カテーテルの挿入を伴わずに、上肢の場合は、肘正中皮静脈、背側中手静脈など、下肢の場合は、大伏在静脈、足背静脈網などが輸液ルートとして選択されるのが一般的です(具体的な位置関係については、解剖アトラスなどで各自確認してください)。
 後述する中心静脈法よりは安全性は高いのですが、穿刺する血管が不適当だと、輸液される薬剤によっては患者に血管痛を与えたり、血栓性静脈炎を招くこともあります。
これを避けるためには、医師にとって穿刺しやすい血管を選ぶのではなく、なるべく太い血管を選択するのが望ましいそうです。
また、中心静脈法よりも一般的に安全性が高いとされているとはいえ、下肢の静脈を選択することは、深部静脈炎や血栓症を招くリスクがあるので、上肢の静脈を選択することが優先されるべきであると言われています。

 

2 中心静脈からの輸液

 

中心静脈を選択する輸液の場合には、カテーテルの挿入が必要となり(したがって、当然ですが、カテーテル感染のリスクがあります)、選択される輸液ルートは、大腿静脈、内頸静脈、鎖骨下静脈の3つがあります。

 

ところで、中心静脈法は、末梢静脈による輸液よりも危険性が高いとされていますが、上の3つの輸液ルートの中でも、その安全性が異なります。

 

まず、この中でも最も安全とされているのは、大腿静脈を穿刺部位に選択する方法です。ただ、その穿刺部位が、会陰部の付近であるため(この付近はあまり清潔な場所ではないそうです)、感染には十分注意する必要があります。
 また、深部静脈血栓症を招きやすい点にも十分な注意を払う必要があります。

 

次に安全だとされているのは、内頸静脈穿刺法です。位置的には首のあたりになりますので(正確には、解剖アトラスなどでご確認を)、血胸、気胸、血腫などによる気道合併症のおそれがあると言われていますが、次に述べる鎖骨下静脈穿刺法よりは合併症のリスクが少ないと言われております。

 

最後に、鎖骨下静脈を輸液ルートに選択する方法ですが、これが経静脈輸液の中で最もリスクが高いと言われています。気胸の合併症が生じやすいほかに、付近の動脈に誤って穿刺してしまう場合もあり、手技として難しいようです。もし誤って動脈に穿刺してしまうと、止血も困難なことから血胸や血腫などの合併症を生じさせる危険性が高まります。したがって、先の大腿静脈や内頸静脈からの穿刺ができないような場合にのみ選択されるべき輸液ルートであると言われています。

 

3 まとめ

 

なお、以上を整理して、安全性を勘案した上での優先されるべき輸液ルートの選択について、優先順位の高い順番で並べてみました。ご参考ください。

 

@末梢静脈(上肢)
A末梢静脈(下肢)
B中心静脈(大腿静脈)
C中心静脈(内頸静脈)
D中心静脈(鎖骨下静脈)

 

 

 

参考文献
@「第一線医師・研修医・コメディカルのための新・輸液ガイド」文光堂

 

※ちなみに、この本は大変便利で輸液の知識として大事なことはほとんど網羅されております。医療過誤事件を手がける弁護士にとっても便利な一冊で、私もこの本をすでに完読しました。お薦めの一冊です。

PC電話ロゴ PCメールロゴ