第5回 / 高血圧とおクスリの話

1 血圧に影響を与える因子

 

この間、健康診断で血圧を計ったらけっこう低くて、ちょっと気になったので看護師さんに「低すぎませんか。大丈夫ですか?」って尋ねたら、「大丈夫ですよ。皆さん、高い血圧を下げるのに必死ですから(笑)」みたいな…。
収縮期の血圧が90を下回るとショック症状が出ると言われているので、生命の危険すらあります。普段の生活では問題ないんですけど、交通事故なんかで出血したら、私の場合は助からないんだろうなぁと思います。

 

皆さん、血圧って、どのような仕組みで決まっているか理解してますか?医療事故を扱う弁護士さんなら、これを理解していると、クスリの文献を読むときに読みやすくなります。
一般に血圧と呼ばれているのは、動脈血が心臓から拍出されたときに血管に加えられるる圧力のことですよね。そうすると、血圧は次のような仕組みで決まります。

 

心拍出量 × 末梢血管抵抗注1) = 血圧

 

したがって、この2つの変数の少なくともいずれか一方が上昇すれば血圧は上がります。

 

心拍出量というのは、要するに心臓から拍出される血液の量ですよね。この心拍出量を決めるのは、循環血液量と心臓の収縮力です。血液の量が増えれば、心拍出量は増えますよね(これを前負荷というそうです)。また、心臓の収縮力(ポンプ力)が強ければ、1回の収縮で拍出される血液の量も増えるので心拍出量も増えることになります。

 

次に、末梢血管抵抗というのは、心臓から拍出されてくる血液を受け止める血管抵抗の問題です(末梢血管なので細動脈です)。血管が細いと血液の血管に加わる圧は高まります(これを後負荷というそうです)。したがって、血圧は上昇。血管が太いと逆のことがおきます。この血管の太さも、同じ人でも常に一定ということではなくて、例えば寒いときには血管が収縮(細くなる)するので、血圧は上がることになります。
このほかに細胞脈の肥厚も末梢血管抵抗に影響を与えます。

 

2 高血圧とクスリ

 

私のように低血圧で悩んでいる人もいるかと思いますが、多くの人は高血圧で悩んでいると思います。
そこで、いわゆる降圧薬(血圧を下げる薬)は、先ほどの式の変数のどれかを変化させればよいという考え方に基づいています。
つまり、循環血液量が減るか、心臓の収縮力(ポンプの力)が弱まるか、末梢血管抵抗が下がれば、血圧は下がるという仕組みになります。

 

いわゆる降圧薬は、このいずれかを変化させることによって血圧を下げようとしているわけです。

 

循環血液量を減らす(抑制する)ための薬として代表的なのが、皆さんもよくご存じの利尿薬。小便として出てしまえば、その分、体内の水分が減り、循環血液量も減るという仕組みを利用しているわけです。
心臓の収縮力を弱める(抑制する)薬には、β遮断薬やCa拮抗薬があります。心臓の収縮力を弱めてしまうというと何だか心臓を弱くしそうで心配になりそうですが、心臓の収縮力が正常に比べて強すぎる場合には弱めたほうがいいわけですよね。
細動脈の血管抵抗を下げる場合、細動脈の収縮(細い血管)を抑制する場合と、細動脈の肥厚(厚みのある血管)を抑制する場合の2つの方法があります。この場合によく使用される薬には、α遮断薬やACE阻害薬などがあります。

 

β遮断薬、Ca拮抗薬、α遮断薬、ACE阻害薬については、心臓の生理学的メカニズムと関係するやや専門的な話になってくるので、別の機会に解説したいと思います。
今回は、とりあえず血圧を決める要因とそれに対する薬の考え方のお話でした。

 

 

 

注1) 血管抵抗は、以下の式で表されます。

 

血管抵抗=入り口の圧−出口の圧 / 血流量

 

この式から分かるように、血管抵抗自体を単独で考えるのではなく、あくまでも”血流量”に対して血管抵抗がどれくらいになるのかを考えることを意味しています。
また、圧に関しては、入り口の圧と出口の圧がありますが、血流を最初に受け止めるのは入り口部分ですから、出口の圧よりも入り口の圧の値が大きくなるのは容易に理解できると思います。したがって、入り口の圧−出口の圧は、常に+の値になるはずです。

 

参考文献
1) JOHN B. WEST 著・桑平一郎訳「ウエスト呼吸生理学入門・正常肺編」メディカル・サイエンス・インターナショナル

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